SOHOによる旅行会社の作り方3 – 開業

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旅行業登録申請から約1か月、ようやく登録完了となった。前回書いた通り日本旅行業協会への入会手続きを済ませ、狭いSOHOの事務所に登録票を掲げる。会社設立が4月12日、登録日は5月28日となった。そして開業日を6月6日と決め、それまで雑務に追われる日々が続く。

形は整ったが、それでもまだやっていけるかどうかの確証はなかった。けれども社員を抱えることなく自分達が食べていけるだけ稼いでいけばよい、という楽な気持ちで始めたのだから、やっていけるかどうかなんて悩む必要はない。出来ることをし、出来る限り多くの人達の旅行を手掛けたい、ただそれだけで開業を迎えた。

営業しない営業スタイル

営業マンが鞄を持って顧客を1軒1軒訪問する昔ながらの営業スタイルでは、少人数性のSOHOではとてもやっていけない。それに代わる営業スタイルは何か?答えはインターネットだった。ターゲットが団体(企業)ではなく、個人だからこそインターネットが役に立つ。

会社設立を決めた時からフライトの営業にはホームページが必須と考え、オーダーメイドの旅行をアピールするページ作りから始めた。とはいっても今までホームページなど作ったことがなく、どうやって作るのか全く分からない。プロバイダー契約をしている@niftyが提供するサービスのひとつに無料ホームページ作成ソフトがあり、手始めにこれを利用して形を整えていった。だがその頃、ホームページは所詮「待ち」の商売と考えていた。SEOといった言葉さえ知らない。そして何を書いていくのか?または何を書いたら売り上げにつながるのか?
手探りで始めたことは、以前在籍していた会社で取り扱っていたヨーロッパへのスケッチ旅行に添乗員として同行した内容を、コラム風に書いていくことからだった。スケッチを目的とする旅行は大都市へはあまり行かず、スケッチのモチーフとなるようなヨーロッパの田舎らしいところへと出かける。例えばイタリア・トスカーナの赤い煉瓦屋根と石造りの家々が続く町並みや、その中にぽつんとあるとんがり屋根の教会、その奥に見える糸杉やオリーブの木が点在する緑豊かな丘が続くような風景だ。添乗業務の合間合間に撮りためたそんな風景の写真を一緒にアップして、その時々に起こった小さな出来事をウェブサイトに書いていく。そうすることで、パッケージツアーでは訪れることが難しい小さな町や村をより多くの人々に知ってもらい、そしてそこへ行きたいと希望する人たちの旅行を手掛ける。そんな目的からホームページをスタートさせた。

またちょうどその頃、インターネット上で旅行のBtoCサイト「e-旅ネット・ドットコム」が少しずつ旅行業界の中に浸透し始めてきた頃だった。旅行見積もりの共同入札ポータルサイトのひとつで、1件あたり郵便代と同料金(現在は全く料金体系が違う)でネット上に依頼された見積もりに対し、複数の旅行会社が共同入札をするサイトだ。依頼者は入札してきた各旅行会社の見積もりから自分の希望に合った旅行会社を選んで契約することができる。
以前在籍していた会社でその存在はすでに知っていたので、「これがフライトにとって新しい営業スタイルだ!」と考えた。顧客分けをして得た顧客がいるからと言って、出来たばかりの小さな会社に企業が業務渡航を依頼してくるとは限らない。このポータルサイトはそれを補うことはもちろん、待つだけの商売(ホームページ)だけではなく攻める営業ができるサイトだった。すぐに入会し、これでホームページと「e-旅ネット・ドットコム」の2本立ての新規営業体制、そして以前からの顧客取扱い営業が決まった。(注:のちに「e-旅ネット・ドットコム」は退会することになるが、それはまだ先の話)

旅行見積もり共同入札サイトの利用開始

さっそく「e-旅ネット・ドットコム」の見積もり依頼一覧を毎日眺め、自分が案内できるものからかたっぱしに画面上で見積もりを作成しては送信していく。なにしろ1件郵便代程度の料金だから、月100件見積もったとしてもたいした経費にはならない。その中から5件でも10件でも契約に至ればそこそこの収益をあげられ、入札料金分は十分ペイできると思った。
入力内容はフライトの基本理念「オーダーメイドとオープンプライス」にのっとり、航空券はいくら、宿泊は1軒いくらで合計いくら、その他送迎代、観光料金、鉄道料金を個別に算出し、最後にその合計と当社が収受すべき手配手数料を算出して総見積もり料金とする。見積もり記入欄には字数制限があり、最初は限られた情報しか送信できない。そこで長くなる日程はあと回しにして、大事な料金を中心に案内を進めた。

1件見積もりを送信すると、運営会社から依頼者に見積もりを送った旨の連絡がメールで届き、その中に依頼者のメールアドレスが書いてある。これが重要な財産、顧客情報となる。メールアドレスの活用の仕方はさまざまだ。返事が一向に来なければ見積もりに何か不満があるものと考え、依頼者の希望を再確認するために連絡してみる。また会社によってはこのメールアドレスをもとにメルマガ等を配信しているところもあると聞いた。だがフライトでは獲得したメールアドレスを依頼者とダイレクトに連絡を取り合うツールに限定した。
例えば、最初の入力フォームは字数制限があって十分な情報を依頼者に伝えられない。そんな依頼者へはメールアドレスを入手したのち、改めて日程を詳しく書いた見積書を案内する。あるいは最初の依頼内容がポエムのような要領を得ないものであったり、どんな旅行をしたいのか具体的なことを何も書いていない曖昧な依頼の場合には、最初に質問形式で送信する。こうして電話の代わりにメールでやり取りするスタイルを確立した。


初めての顧客獲得

それ以来、見積もり入札を日課として最初のお客様獲得に尽力した。ところが実際は、そんなに甘いものではないということを痛感した。100件見積もってその中から5件でも10件でも契約に至れば、という皮算用の通りにはいかなかった。少し経ってから運営会社に聞いたところ、成約数を挙げている会社でも見積もり送信に対する成約数は10%前後と聞いた。
毎日おおくの見積もりを送り、やっと獲得した最初のお客様はスイスを中心とした鉄道旅行一人旅の女性だった。なにしろ初めてのお客様だから、何度かメールでやり取りしたのち「申し込みます」と連絡を頂いたときには、喜びも格別だった。すぐに旅行契約の書類を作成し、それに基づいて手配を進める。手配もすべてインターネット上だ。

出発が近くなったら航空券やホテルバウチャー、レイルチケット、そして最終日程表を作成して最終書面一式を用意する。これらは宅配便で送ることにしていたが、このお客様は手渡しを希望した。もともとSOHOスタイルを決めた時、インターネット中心の営業だからカウンターなどは一切作らないつもりだった。しかし、このお客様のように出発前に一度自分が依頼した旅行会社の担当者に会って、どんな人が自分の旅行を担当したのか確認したい人もいることをその時に再認識した。このお客様は当社の最寄駅まで来られるということだったので、駅に近い喫茶店へご案内しそこで説明しながら書面一式を手渡した。

「果たしてこのやり方でよかったのか?提案した旅行で満足してお帰りになるのか?」在籍していた会社では数えきれないほど取り扱ってきたオーダーメイド旅行だったが、開業したばかりの何の信用もない小さなSOHO旅行会社へ、たった数回のメールのやり取りで申し込んでくれたお客様に最終書面を渡した後、そう感じたのは不思議ではない。自信をもって提案し出発してもらったつもりだったが、帰国メールを頂くまでは落ち着かなかった。

帰国予定日の数日後、詳細の報告メールが届いた。全体的に満足して旅行を楽しんできたことや、手配したホテルについて「夜間の騒音が少々うるさかった」など気づいたことを詳細に知らせてもらえた。何のトラブルもなく無事帰国されたことにほっとはしたが、その余韻に浸っている暇はない。この1件だけではとても食べていけないからだ。個人旅行の粗利は1件だいたい15%前後、他業種と比べたらとても薄利だ。このような個人旅行を何十件も契約して積み重ねていかなくては、ポータルサイトへの入札料金も支払えない。

「SOHOで旅行会社」は思ったよりも厳しいスタートとなった。

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